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Home / 恋愛 / あおい荘にようこそ / 040 西村さんのこだわり

040 西村さんのこだわり

2025-06-23 17:00:16

 直希がトイレから戻ると、何やら物々しい雰囲気になっていた。

「西村さん、馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ」

 ラジオ体操を済ませた入居者たちが、再び食堂に集まっていた。そこで珍しく、貴婦人山下が声を荒げていた。

「あなたみたいなスケベさんに、あの子たちの世話なんて任せられる訳ないでしょ。このあおい荘で犯罪なんて、勘弁してほしいわ」

「と、とにかく落ち着きましょう、山下さん。はいこれ、食後の紅茶、砂糖多めに入れましたから」

「そうですそうです。山下さん、こんな暑い日に興奮したら疲れてしまいますです」

「ほっほっほ。山下さんは厳しいのぉ」

「全く……」

 大きく息を吐いた山下が、つぐみの出した紅茶に口をつける。

「あら……つぐみちゃん、今日の紅茶、いつもとは違うわね」

「え、ええ、そうなんですよ。これはこの前、生田さんの息子さんが持ってきてくれた分なんです。アールグレイです」

「とてもおいしいわ」

「あ……あははははっ」

「つぐみ、何かあったのか」

「な、直希、よかった戻って来てくれて。実はね」

「ナオ坊や。みぞれちゃんとしずくちゃんの面倒、わしが見てもいいかの」

「西村さんが? ああなるほど、そういうことね」

 西村の言葉に、山下が思い出したようにまた声を荒げた。

「だから西村さん、あなたはちょっと黙ってなさい」

「山下さん山下さん、そんなに興奮してたら口から火、噴いちゃいますよ。ゴジラみたいに」

「ゴ……うふふふふっ、直希ちゃんったらほんと、よくそんな面白いことがポンポン出て来るわね」

「暑すぎて最近、頭に虫が湧いてるんですよ」

「まあ……うふふふふっ」

 どれがツボに入ったのか分からないが、山下が口に手を当てておかしそうに笑う。

「ナオ坊、どうじゃな」

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